背景) 大腸癌において抗癌剤治療を制約する治療抵抗性は十分に明らかにされていない。われわれは、遺伝子発現探索により大腸癌の治療抵抗性予測バイオマーカー同定を試みた。
方法) 6種類の大腸癌株化細胞に phenylbutyrate (PB; HDAC inhibitor)を添加し、抵抗性細胞と感受性細胞を同定した。遺伝子発現と治療抵抗性の関連を microarrays (54,675遺伝子)を用いて解析し候補関連遺伝子を絞った。候補遺伝子の機能的検証を株化細胞に対する遺伝子導入実験で行い、臨床検体における治療抵抗性の予測の可能性につき検証した。
結果) DLD1, HCT15細胞は PB抵抗性株であり、HCT116細胞は PB感受性株であった。Microarrayにおいて PB抵抗性に強く関連する遺伝子は ASCL2, LEF1, TSPAN8であった。これらの遺伝子を発現するプラスミドベクターを得て、PB感受性株 HCT116細胞に遺伝子導入を行うといずれの遺伝子もPB抵抗性が増強された。ASCL2遺伝子は LEF1, TSPAN8遺伝子を誘導したが、逆の現象はみられなかった。一方で、PB抵抗性株 DLD1, HCT15細胞において Ascl2遺伝子ノックダウンを行うと、LEF1, TSPAN8の発現が低下し、PBに加えて 5-FU, radiationに対する治療抵抗性も減弱した。また、直腸癌のNAC前生検検体を用いて ASCL2遺伝子発現を免疫染色で行ったところ、遺伝子強発現とhistological gradeに強い相関を認めた。
結論) 以上から、ASCL2遺伝子は大腸癌における抗癌剤治療抵抗性に極めて強い関連する原因遺伝子であることが判明した。今後は、ASCL2遺伝子発現の低い患者に対する PB投与の有用性などについて検討していきたい。
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