研究会名変更のお知らせ
平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。
さて、このたび当研究会は、エピジェネティック療法研究会から
「エピジェネティックメディスン研究会」へ研究会名を変更いたしました。
当研究会は、エピジェネティック療法の臨床への応用や、基礎研究の先生方と一般臨床医の先生方の橋渡しをする目的で設立いたしました。今後も、新たな治療法の可能性を研究・調査・追及するとともに、エピジェネティックなアプローチを用いたさまざまな領域に関する情報の提供をしてまいります。
今後とも引き続き、みなさまのご支援をお願い申し上げます。
2023年6月
エピジェネティックメディスン研究会 代表幹事
北里大学外科学教室と当研究会との共同研究
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大腸癌における包括的遺伝子探索により同定された抗癌剤抵抗性分子機序 Ascl2-LEF1/TSPAN8経路の重要性
背景) 大腸癌において抗癌剤治療を制約する治療抵抗性は十分に明らかにされていない。われわれは、遺伝子発現探索により大腸癌の治療抵抗性予測バイオマーカー同定を試みた。
方法) 6種類の大腸癌株化細胞に phenylbutyrate (PB; HDAC inhibitor)を添加し、抵抗性細胞と感受性細胞を同定した。遺伝子発現と治療抵抗性の関連を microarrays (54,675遺伝子)を用いて解析し候補関連遺伝子を絞った。候補遺伝子の機能的検証を株化細胞に対する遺伝子導入実験で行い、臨床検体における治療抵抗性の予測の可能性につき検証した。
結果) DLD1, HCT15細胞は PB抵抗性株であり、HCT116細胞は PB感受性株であった。Microarrayにおいて PB抵抗性に強く関連する遺伝子は ASCL2, LEF1, TSPAN8であった。これらの遺伝子を発現するプラスミドベクターを得て、PB感受性株 HCT116細胞に遺伝子導入を行うといずれの遺伝子もPB抵抗性が増強された。ASCL2遺伝子は LEF1, TSPAN8遺伝子を誘導したが、逆の現象はみられなかった。一方で、PB抵抗性株 DLD1, HCT15細胞において Ascl2遺伝子ノックダウンを行うと、LEF1, TSPAN8の発現が低下し、PBに加えて 5-FU, radiationに対する治療抵抗性も減弱した。また、直腸癌のNAC前生検検体を用いて ASCL2遺伝子発現を免疫染色で行ったところ、遺伝子強発現とhistological gradeに強い相関を認めた。
結論) 以上から、ASCL2遺伝子は大腸癌における抗癌剤治療抵抗性に極めて強い関連する原因遺伝子であることが判明した。今後は、ASCL2遺伝子発現の低い患者に対する PB投与の有用性などについて検討していきたい。
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『HDAC阻害剤であるフェニル酪酸による乳がん治療抵抗性に
ZEB1遺伝子によるエピジェネティックな制御が関連している』
Phenylbutyrate (PB) は抗腫瘍効果を示す HDAC 抑制剤である。本研究においてわれわれは7種類の乳癌細胞株を用いてPB感受性を予測しうる候補遺伝子同定を試みた。マイクロアレイを用いた包括的遺伝子発現解析プロファイルが比較され、同定された遺伝子については遺伝子導入実験が行われた。CRL およびMDAMB453 乳癌株化細胞はPB感受性であり、MDAMB231 乳癌細胞株がPB抵抗性株であった。RAB25 およびESRP1 はPB 感受性規定分子であったが、一方 ANKD1, ETS1, PTRF, IFI16 およびKIAA1199はPB 抵抗性分子候補であった。これらの遺伝子の発現はDNA脱メチル化処理で劇的に変化した。RAB25 発現は IFI16およびPTRFを抑制し、ESRP1 発現はANKRD1, ETS1, および KIAA1199を抑制した。RAB25と ESRP1はZEB1により抑制され、それはepigenetic な制御を受けていた。したがって、PB 感受性は ZEB1の epigenetic 制御の下流でコントロールされることが判明した。以上よりZEB1遺伝子の epigenetic な制御は乳癌治療における治療抵抗性を予測する極めて重要なバイオマーカーとして注目すべき遺伝子であると考えられた。
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